小学校で英語を学ぶようになって数年。
国立教育政策研究所の調査である令和3年度 全国学力・学習状況調査 報告書(PDF, 26.1MB)などによると、小学生6年生で英語が好きだと答えた人数は2013年と2021年を比較すると減っているとのことでした。
具体的には、2013年に約4人に3人(76.2%)が「英語の学習が好き」と答えていたのに対し、2021年には約3人に2人(68.3%)と減少傾向にあります。
教室にいる生徒の3分の1が英語は好きではないと答える現状において、AIや自動翻訳機が充実してきた近年の技術の進歩を考慮しても筆者は「小学生に英語が必要」だと考えます。
さっそくですが、本記事のタイトルにある「小学生での英語の必要性」と「学習するメリットとデメリット」について考察していきましょう。
筆者は高校・中学で英語を教えた経験と留学経験、そしてバイリンガル子育てに挑戦中の2児(4歳と6歳)の親ですが、それらの経験をベースに執筆していきます。
小学生に英語はなぜ必要か① 中学受験
授業化することで、受験英語も必要になってきている傾向があります。
親であるみなさんの中には「受験はまだ先の話」と考えている方も少なくないでしょうが、近年では中学受験で英語を試験科目に入れている中学校が目立ってきました。
例えば東京都内(に茨城県と静岡県含む)では、2023年の入試で私立140校が中学入試に英語を課しています。
出典 英語(選択)入試導入校141校一覧<2023年入試>,首都圏模試センター
今後は各都道府県の私立中学でも増えていくことが予想されます。筆者がそう考える理由を引き続き話していきます。
小学生に英語はなぜ必要か② 中学受験で英語が重視されていく背景
英語の学習に関して文部科学省は、2020年を目標に英語教育の改革をしてきました。以下のとおり小・中・高等学校の英語教育を連携させ、社会のグローバル化に対応できる人材育成に向けて調整しています。
学習指導要領では、小・中・高等学校を通して1.各学校段階の学びを円滑に接続させる、2.「英語を使って何ができるようになるか」という観点から一貫した教育目標(4技能に係る具体的な指標の形式の目標を含む)を示す。
今後の英語教育の改善・充実方策について 報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~
同方策において、高校では発表・討論・交渉といった言語活動の経験を増やし、英語によるコミュニケーション能力を高めながら大学での研究の質を高められるように考慮されています。
その理由として、日本における研究論文の数が世界3位だった2006年以降、減少傾向にあり2023年の調査によると世界5位へ転落、Top10%補正論文数においては13位と近隣国である韓国に抜かれるという事実があります。
出典 科学技術指標2023(概要),科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)
このことから、小学校・中学校では、高度な学術研究に必要な基礎を身につけさせたいという考えが見て取れます。例え、大学進学しなかったとしてもグローバル化する社会に対応すべくコミュニケーション能力の向上が望まれているのが現状です。
言語の習得だけでなく、異文化理解や他者理解といったスキルも必要で、小学校英語からそのような姿勢の育成が望まれていると筆者は考えます。
小学生に英語はなぜ必要か③ 小学生という時期に注力する理由
言語習得にはまず母国語の習得を優先すべきだという研究者もいる中、「どうして小学校で英語を学ぶようになったのか」という点についても触れていきたいと思います。
ここでは、臨界期仮説という年齢と言語習得を関連づけた考え方に触れます。
臨界期仮説(Critical Period Hypothesis)は、ある一定の年齢を過ぎるまで(臨界期)に言語に触れる機会がないと、その言語を完全に習得することが難しくなる、という考え方です。
ワールド・ファミリー バイリンガルサイエンス研究所
一言でいうと、「年齢を重ねるたびに習得が難しくなっていく」ということが言われているのです。
この臨界期仮説には反対意見を主張する論文もあります。しかし、本記事の執筆者である私の経験上でも早めに始めることは以下のように効果が高いと感じています。
- リスニング量が増える
- ネイティブの音が当たり前になる
- 日本語による思考が減るためレスポンスが高くなる
- 失敗を恐れず言語活動を楽しめる
しかしながら、これらは自宅でのバイリンガル教育による効果であり、小学校英語で同じ効果を得られるかどうかは分かりません。
理由としては以下のようなことを考えます。
- 小学校の先生に英語のプロはまだ少ない
- 集団での学びである
- 教材が完全に英語ではない
- 授業である以上評価がある
- 入試を想定していれば効率化が進む
筆者の家庭ではなるべくネイティブの言語習得環境を意識してきました。赤ちゃんの成長と言語の必要性に対応しながらコミュニケーションの中に言語習得を取り入れていく方法です。
そのため、小学生で初めて英語に触れる子供たちも、のびのびと言語活動を楽しみながら、遊び感覚で英語に親しんでほしいと願っています。
小学生が英語を学習するメリット
小学生が英語を学習するメリットは、言語習得面よりも異文化や外国人、他国への興味を持つ機会を得られるということではないでしょうか。
島国である日本では母国語で完結できるという良さがあります。先述した論文数も実はすごいことで、母国語による高度な学術論文が多いということは世界的に見ても恵まれた環境と言えます。
しなしながら、先進国として世界をリードしてきた時代の技術力・知識量が武器だった日本も、IT社会においては後進国として他国を追いかける現状にあります。
そのため世界的に使用者が多く、かつ良質な論文にアクセスできるような言語である英語を習得することは、日本人がグローバルな社会でふたたび活躍するためには必要だと言えるでしょう。
本記事を読んだ皆さんなら、英語習得のための素地づくりとして小学校英語をうまく利用すべきで、英語習得が将来的にグローバルな活躍のできる可能性に満ち溢れていることはお分かりいただけるでしょう。
小学生が英語を学習するデメリット
小学生の英語学習に対してのデメリットを懸念している学者もいないことはありません。
例えば、「母国語による思考力育成が第一であり、第二言語の習得はそのあとでよい」と主張している学者もいます。
幼少期の英語に触れる時間は、つまり日本語で思考したり議論したりする時間を奪うと考えることもできるのです。
また、早期に英語嫌いになるリスクも含んでいれば、早期から塾や英会話教室への授業料が必要になるといった心配もあります。
小学校での英語授業は親である私たちにとっては未知なため、どのようなことをすれば良いかが分からないことも親にとってのストレスであり、デメリットと言えるかもしれません。
しかし、小学校英語に向き合うことは親子にとってメリットがあると筆者は考えます。
なぜ英語嫌いの小学生が増えたのか
冒頭にある調査で2013年と2021年を比較して英語嫌いが増えていると話しましたが、これは単純に英語が小学校で授業となり英語に触れる子供の数が増えたからと考えることもできます。
筆者が思うのは、その数値よりも好きだと答えられない背景を考えるべきだという点です。
受験のため、将来のためと親や先生に言われ、「英語=勉強」として捉えていれば好き・嫌いで分類されてしまうのは仕方ありません。
授業として扱われ、成績を付けられるのですから、苦手意識を持てば「嫌い」と背中を向けてしまうことも考えられることです。
それでも英語を本格的に学ばせたい文部科学省・国の方策を考えると授業化は仕方がないのですが、そこで大人たちがどのように子供たちと英語という言語を楽しめるかがポイントになっていくのではないでしょうか。
グローバル化した社会を生き抜く上で英語の習得とその過程で得られる体験は子供たちに必要です。小学校で英語を習うデメリットへ配慮しつつ、メリットを最大化できるように親子で向き合うことをお勧めします。